『白紙の祈り』(東方Project SS)

2012年1月1日
拙作(東方Project)

突発的に閃いたてゐ×鈴仙の七夕ネタ。
ベタベタ&ワンパと散々な代物ですが、書いた本人はこれで結構気に入っていたり……(笑)。


東方Project SS
白紙の祈り

 人というのは何かつけて、祭事を行いたがるものである。元々は農作業の目安を測るために考えられた暦の区切り目があり、それに合わせて豊作を願った儀式が行われるようになり、いつの間にやら儀式だけに留まらぬお祭り騒ぎが付随し、やがて新たな迷信が生まれる。そんな後付けの繰り返しで、風習というのは作られてきた。

 そんな「原型に後付けを施した年中行事」の一つが、七夕祭りである。

 幻想郷では「祭り」と称するほどの大きな催しは行われないが、外の世界と同じような風習はしっかりと存在している。里には山林からいくつもの笹が運び込まれ、老若男女が願いを込めて短冊を吊るしていた。
 かつて大陸で生まれたというこの風習は、元々は針子が技術の上達を祈願していたものだというが、この国に伝わった折に他の祭事と混ざってしまい、様々な願い事を吊るすようになったらしい。今では当たり前のように「家庭円満」「豊作祈願」「無病息災」など、願い事は十人十色である。
……まったく、納得行かないわ。」
 信心を一身に集めた植物を相手に、うんざりした表情で溜息を吐く少女の姿。見るからにおめでたい紅白の衣装に身を包むその姿を見て、誰なのかを判別できぬ者など幻想郷にはいないだろう。
「祈願するなら神社に来りゃいいじゃないの……。」
 博麗神社の巫女、博麗霊夢。普段は神社からあまり離れず、茶を飲んでいるか境内の掃除をしているフリをしているかのどちらかな彼女であるが、今日はたまたま里まで降りてきていた。見てもらいたい書物があるからと、歴史家の家にお呼ばれしていたのだ。その帰りがけに、物言わぬ商売敵を発見してしまったわけである。
「まぁ仕方ないだろ。笹は祈れば叶えてくれる可能性があるが、神社は祈っても無駄な可能性があるからな。似ているようでこの差はでかいぜ。」
 そんな霊夢の傍らに歩み寄ってきたのは、黒を基調とした西洋風の衣装を纏う少女。魔法の森に住む奇人として、霊夢に負けず劣らず有名である。
「魔理沙、あんたどこ行ってたのよ?」
 皮肉を聞き流されて苦笑を浮かべた魔法使い、霧雨魔理沙は、たったいま歩いてきた方角を指差して肩をすくめてみせる。
「なんか面白い叩き売りが来てるんだよ。よく知った顔だけどな。」
「知った顔?」
「百聞は一見にしかずだ、一緒に来いって。」
 有無を言わさず反転する魔理沙の後に、霊夢は慌てて追随した。大して歩かぬうち、少し開けた空き地に行き当たる。その中心部には何やら人だかりが出来ていた。
「はーいはいはい、寄ってらっしゃい見てらっしゃい買ってらっしゃい~」
 小さい影が元気の良い声を張り上げている。このいかにも胡散臭く調子の良い物言い、隣りにいるこの黒いの以外で思い当たる人物——正確には人ではないが——は一人しかいなかった。
「あれって、永遠亭の嘘吐き兎じゃないの。」
 それは薄桃色のワンピースを着た小柄な少女、ただしその頭部には兎の耳が生えている。竹林のお屋敷、永遠亭に住む妖怪兎たちの元締め、因幡てゐである。
「また新しい詐欺の手口を覚えたみたいだぜ。」
 魔理沙の軽口が聞こえたのか、てゐはギロっとこちらを睨み、手にしたハリセンをビシッと突きつけてきた。
「おーーーっと、聞こえたよ聞こえちゃったよお嬢ちゃん? 嘘かどうかは説明を聞いてからでも遅くはないんじゃないかいっ!?」
 面倒くさいのに絡まれたものである。こうなったら腹をくくって話を聞いていくしかなさそうだ。
「今日はめでたい七夕の日! お天道様もこれだけ元気じゃあ、夜には綺麗な天の川がずるぁーっとお目見えだ!! そこで必要なのは何だ? そうだ、短冊だよ!!」
 とんとん拍子に口上が進んでいく。この辺は普段の詐欺術を応用した話芸なのだろう。ここでやっと里の人間から声が上がる。
「だがよ、短冊の願い事ならもう書いちまったっぺ?」
「ああそうなんだよなぁ。母ちゃんの目方が減りますようにって書いたばっかりだぁ。」
「アンタ、そりゃどういう意味だい?」
「あたしなんか自分の目方が減りますようにって書いたわよ。」
「ちょっとちょっと、あんたそれ以上細くなったら案山子になっちゃうよ?」
 てゐは口々に騒ぎ始める人間たちを見回し、しばらくは制止することもなく様子をうかがっている。釣り針に食いついた獲物をすぐには引き上げようとせず、泳がせて疲れさせるというわけだ。この辺はさすがの詐欺兎と言ったところか。
「ああそうだ、短冊も大事だ。でも願い事を書くのにはまだ必要なものがあるだろう? 筆が無きゃ字は書けない。だが筆だけで字は書けるかい?」
「ほえ? かけないっけ?」
 最前列で話を聞いていた幼い少年がとぼけた顔で答える。まだ読み書きも殆どわからないような年だろう、むしろ話についていってるだけでも大したものだ。
「よぉし、それじゃ坊主、これ持って字ぃ書いてみな。」
 すっかり叩き売りのおっさんと化したてゐは、自ら持ってきたのであろう筆を少年に持たせ、目の前に短冊を置いてやった。
……んあ、字が見えないぞ?」
「ははは、そりゃそうだよ坊主。筆『だけ』じゃあ字は書けねぇ。」
 つまり、少年が渡された筆は綺麗なまま——墨が付いていないのである。
「なるほど……そういう意味か。」
「確かにこれじゃダメだな。」
「坊主、いっぱい食わされたな。ハハハ!」
 少年の周りで見ていた三人組でつるんでいるらしき若者が、やり取りの一部始終を見て笑っていた。そんな彼らを、てゐが突然指差して見せる。
……なーんて思ったあんたたちは甘ぁぁぁいっ!!」
「な、なんだってぇーーー!?」
 何故か同時に同じ言葉を叫び、驚愕の表情で固まる三人組。
「甘いって、何が甘いんだよ。月見団子じゃあるまいし。」
 不可解なやり取りに食いついたのは、珍しく黙って成り行きを見守っていた魔理沙だった。てゐが何らかの品物を提示しようとしているのは明らかだ。蒐集家としての血が騒ぐのだろう。
「そんな季節外れの話じゃないよ! 注目はこの筆についた『墨』さ!!」
「墨って……何も付いてないじゃない。」
 さすがにこの物言いには霊夢も黙ってはいられなかった。何しろ少年がてゐに返した筆には、明らかに墨など付いていないのだから。
「付いてはいるよ。ほれ。」
「おお、本当じゃ。何か透明な……水じゃろうか?」
 最前列近くにいた老人が、てゐに差し出された筆の毛先を触って、目を丸くしていた。水でなぞったにしたって、短冊に跡ぐらいは残りそうなものである。
「そう、これこそが我らが永遠亭の誇る稀代の薬師、八意永琳様がお創りになられた『願いを天に届ける墨』なのだーーーー!!!」
 てゐが声高らかに品名を宣言すると、観衆が一斉に沸いた。引っ張りに引っ張っていたからか、皆一様に食いついていたのだろう。
「そ、それってどういうことだいっ!?」
「この墨はね、短冊に書いた時点では何も見えないんだ。これを笹に吊るして、一晩待ってみなさい。願いが天に届いていれば、夜が明けた時に、書かれた願い事が浮かび上がっているから。」
 さらなる歓声が上がる。てゐの言う通りであれば、何とも不思議で幻想的な代物である。
「なんでそんなことが起きるの!?」
「いやー、それはそういう風になっているからとしか。」
 いわゆる企業秘密というやつだろう。もっとも、永琳が作ったものであるのなら、てゐは実情を本当にわかっていないのかもしれないが。
「それって本当に永琳が作ったものなのか?」
 魔理沙の質問はもっともだ。てゐがそう騙っているだけという可能性も否定できない。
「いやいやいや、さすがにお師匠様の名前を悪いことには使えないよ……蜂の巣にされちゃうから。」
 急に顔色が悪くなるあたりに、妙な説得力があった。実際に何度か蜂の巣にされていそうである。
「でも高いんでしょう?」
「いいえ、そんなことはありません!」
 今の若い女性の質問はタイミングが妙に良かったが、サクラの何人かも混ざっているのだろうか。てゐならやりかねない。
「お師匠様の実験をお手伝いいただく側面もございますので、一銭です、一銭でこの不思議な墨をご提供します。さぁどうだ!?」
「おお、それぐらいなら悪くないな。せっかくの七夕だ、ちょっと遊んでみようや。」
「そうね。願い事が浮かんでくるなんて素敵な仕掛けじゃない。」
「八意先生にはいつもお世話になっとるしのぉ、おひとついただこうか。」
「おれっちにも売ってくれや~。」
 たいした値段でもないためか、若者を中心に好感触のようである。中には子供にねだられて購入している親なんかもいるようだ。
「はーいはいはい、押さない押さない。まいどありー、どうもー。」
 次から次へと、小瓶に入った不思議な墨は売れていく。誰一人としてこれがただの水ではないということを証明できはしないのだが、お祭り相場とでも言うべきか、財布の紐はだいぶ緩くなっているようだった。
「どうするよ?」
「タダじゃないのは気に食わないけど……
「それ以上に気になるってか。」
 結局、霊夢と魔理沙もてゐに一銭払うこととなった。好奇心の代価としては、あまりに安すぎるためである。

 かくして、人々は目に見えない願いを短冊に込め、それぞれに笹に吊るして夜を迎えた。昼間の盛り上がりを天も楽しんでいたのか、天の川のよく見える美しい夜空が広がり、人々の目を楽しませた。

 そして夜が明け、まだ空も白み始めて間もない早朝。
 竹林のお屋敷、永遠亭の庭にも、大きな笹が飾られていた。

 売り捌く身であったてゐ本人もまた、あの面白い墨で願い事を書いた短冊をぶら下げていた。文字が浮かんでいるかどうかを確認したら、とっとと短冊を捨てようと思っていたので、朝一番に庭に出てきたのだが——
「良かった、だいたい上手く行ったみたいね。」
 そこには先客がいた。一つ一つの短冊を確認しているらしき人影。それは十字の紋様が刻まれた帽子を被り、赤と紺にはっきりと色分けされた衣装に身を包む、大人びた雰囲気の一人の女性。
「おししょーさま、はやっす。」
「おはよう、てゐ。昨日はご苦労様……おかげで良好なデータが取れそうよ。」
 彼女の名は八意永琳。永遠亭の主の側近であり、里では名の知れた名医でもある。
「ああいう役目はやっぱりウドンゲよりあなたのが適任ね。娯楽品は盛り上げないと目を向けてもらえないから……
「いやぁ、人間たちは珍しいもんに目がありませんねぇ。ちょろいもんですよ。」
 まさに詐欺師の本領発揮である。まして今回の売り物は本物の珍品。足が付かないようにカモフラージュする必要もないのだから、食いついてくるままに売り捌けば良いまでのことだった。
「しかし不思議っすねぇ。なんで願い事が浮かぶんすかこれ?」
 実際のところ、てゐもその理由は知らなかった。自らも知らない方が話を盛り上げやすいと、敢えて聞かなかったのだ。
「ちょっとしたトリックよ。本当はね、願い事とは関係ないのよ。」
「へ? それって……
「騙すってつもりじゃないわよ。ちょうど完成したのが七夕の日だったから、ちょっと趣向を凝らしてみただけ。」
 永琳は目の前の短冊を手に取り、文字の浮かび具合を見ているようだった。そこにはうっすらと青い文字で「月見団子 お腹いっぱい」と書かれている。
「この墨はね、今の季節の深夜の空気に含まれる成分に反応して性質が変化するの。成分って言っても霊的な要素が強いから、恐らく地上の技術じゃ原理もわからないでしょうけど。とにかく、その変質した状態で水分と反応して色が変わるようになってるのよ……って」
 複雑なことなどわからないてゐにしてみれば、それは暗号の羅列ですらなかった。ぽかんと口を開けてしまうとはまさにこのことか。
「ちょっと難しかったかしら?」
「ちょっとどころじゃなく難しかったっすよ……
 一部を除いて、幻想郷の妖怪は基本的に無学なのだ。月の頭脳とまで呼ばれた天才医師が加減も無しに難しいことを語り出したら、付いていけるわけもない。
「まぁ簡単に言うと、屋外に一晩置いて朝方に濡れると文字が浮かぶってこと。」
「濡れるって……ああ、朝靄。」
 靄や霧が物凄く細かい水の粒だという話は聞いたことがあった。もちろん幻想郷では常識破りの能力を使う者も少なくないので、全ての靄や霧がそうだとは限らないが。
「どのぐらい空気に触れたかで浮かび方は変わるわ。笹の葉が重なってたりすると、その部分だけ……。」

「師匠、兎たちが帰ってきましたよ。」

 館の方から声をかけてきたのは、永遠亭で兎たちのリーダーシップを取るもう1人の妖怪兎、鈴仙だった。
「あら、思ったより早かったわね。ありがとうウドンゲ。」
 屋敷に入っていく永琳と入れ替わりで、鈴仙がてゐの傍らへやってきた。
「鈴仙は何か書いたん?」
 どうせこの中途半端に生真面目な隠れ根暗のことだ、わりかしまともな願い事を書いているに違いない。それをネタに少しからかってやろうと考えていたてゐだったが——
「書きそびれちゃったわ。昨日の夜は仲間との交信が長引いちゃって……
「なぬ。」
 これは計算外であり、そして必然的に藪蛇となる。
「それ、あんたの短冊?」
「ぬわっ、ちょ、ちょっと待った!」
 永琳と話しながら探し続けて、ようやく見つけた自分の短冊。書いた面が裏側になっていて、まだ浮かび上がった結果を見られていない。鈴仙が声をかけてきたのに反応して、手をかけたまま止まってしまっていたのだ。短冊の所在だけがバレて、中身が見えないという最も厄介な状況である。
「どうせあんたのことだから、『一攫千金』とか『詐欺術向上』とか『みんながマヌケになりますように』とかそんな内容でしょ?」
「言うに事欠いて失礼なことをー!」
 その程度は願掛けせずとも自力で可能だと言うのに。もっとも、最後の一つは少し魅力的だったが。
「じゃあ何て書いてあるのよ?」
「え? えーとそれはまぁ……
 歯切れの悪い返事は相手の興味を刺激するだけだとはわかりつつ、はっきり答えるわけにもいかない内容だったので、上手い言葉も見つからずに回答を留保し続けるしかなかった。せめてここに現物がないのなら、適当に嘘をついて誤魔化すこともできるのだが。
……えい。」
「のわーーー!?」
 今でこそこんなだが、元々は月の都の兵士だった鈴仙。その気になればてゐの隙をついて短冊を奪うことなど造作もないことだった。虚を突かれたのもあって、てゐの焦りはピークに達していた。
「ちょ、ちょ、ちょっとま、まった……
 これを読まれるのはまずい。だったら書かなければ良かったのだろうが、まさかこうもハプニングが重なって回収が遅れるなどと思わなかったのだ。そんな自分への言い訳をしてる間に、鈴仙は短冊の文字に目を通してしまっていた。

 大して長い文章ではない。すぐに鈴仙は、てゐの方へ視線を戻す。

「あんた……
「う……な、なに……?」
 鈴仙の顔を見るのが怖かった。あの文章を見ていったいどんな反応をするのか。それを書いたてゐに対する反応に他ならないからだ。恐る恐る視線を動かしたてゐの視界に映った鈴仙の表情は——

——あれ、普通だ……

 てゐの思考が高速で回りだす。鈴仙の性格的に、あれを読んで表情に出さないはずはない。それが良い心情かどうかは別の話として、だ。しかし目の前にある鈴仙の表情はごく普通、特に大きな感情の変化は見られない。それはつまり、てゐが書いた文面を正確に捉えられていないのではないか。

——「どのぐらい空気に触れたかで浮かび方は変わるわ。笹の葉が重なってたりすると、その部分だけ……。」

 永琳の言葉がてゐの頭を過ぎる。それで鈴仙が「見たもの」の予測がほぼ完了した。焦りを完全に払拭したてゐは、直前までの焦りの表情はそのままに、鈴仙が差し出してきた短冊の表面を見る。

『鈴仙の馬鹿』

「い、いやさぁ、願い事も特に思い浮かばなくてね、でも面白そうだから試し書きしようと思ったんだけど、結局いつも通り……って感じにね?」
 声色には焦りを残しつつ、しかし内心はすっかり平静を取り戻していた。もちろんそれを表に出せば、逆に鈴仙は不自然さを感じるだろう。だからこれが一番無難な措置なのだ。

 バレると困る文面が、「それ」であったとすることが。

 結局、鈴仙はぐちぐちといつも通りの小言を漏らした後、永琳の部屋へ行くと言って去っていった。この墨の色の出方について、細かく結果をまとめなければならないらしい。遊ぶ方は文字が浮かんで面白かった、で終わりだが、頭の良い人たちは面倒くさいことをするものだ。
「いやぁ……危なかったわ。」
 鈴仙が浅慮で助かったというところか。いくらてゐが鈴仙を馬鹿にして遊ぶからと言って、七夕の短冊にまで書いたりするわけがないというのに。そもそもに鈴仙が見るという保証自体がないだろう。
「こんな隅っこにだけ文字が書いてあって、何も疑わないってのも純粋というかマヌケというか……
 兵士のくせに、暗号の文とかやり取りしたことはないのだろうか。あの交信術があるから、必要ないのかもしれないが。
……ていうかなー……気付かれなかったら気付かれなかったで……むー……
 バカにバカと言って何が悪い、とは幻想郷では特によく聞かれる喧嘩の売り文句だが、やっぱり鈴仙は馬鹿だ。馬鹿だから馬鹿と書かれるのだ。
……うん、せっかくだし。」
 昨晩は季節の割に冷えたのだろうか、笹の葉には朝露が乗っていた。てゐはそれを適当に指先に付け、短冊の空白部分を濡らしていく。まるで浮き上がるように青色の文字が現れ、そこに書かれている本来の文章が完成していく。全ての文字を浮かび上がらせたところで、てゐは再び短冊に糸を通し、笹の葉の先に吊るすことにした。
「マヌケの鈴仙だもん、堂々とぶら下げたってどうせ気付かないよね。」

——気付いてくれりゃ、嬉しいんだけどさ。

 届いた願いが浮かび上がるというのは、てゐが並べた嘘八百。短冊に込めた願いは、その文字が見えようがそうでなかろうが、きっと叶うのだ。それを叶えたいと強く願っていれば、きっと。

 足取り軽い素兎が去ったその後に、彼女がかけた短冊が風に揺られていた。
 青い文字で浮かび上がったその願い事は——

『鈴仙の馬鹿と ずっと一緒にいられますように』