『ちょっと振り抜いてみただけの異邦人』(ポップンミュージックSS)

2012年1月3日
拙作(ポップンミュージック)

ミラクル4(特にリーダー)とヴィルヘルムの共演。
と或る方の布教によりばっちり洗脳されて書き上げた一作ですが、
例によって無計画っぷりがあちこちで炸裂しております……


ポップンミュージックSS
ちょっと振り抜いてみただけの異邦人

 とりあえず家の玄関を開ける前に気付いたのは、妙に静かだということ。賑やかな奴が3人もいるから、この時間に戻った時にはだいたい騒々しい笑い声とかが聞こえてくるのだ。だが、今日はそれがない。祭りは現在一段落しているから、今更出かけているとも思えないのだが。
 そしてもう一つ。どうにも戦闘音が聞こえるような気がして仕方ない。しかし我が家に魔法的な力を行使できる奴はいなかったはずだし、「彼」が本気を出すことなどまず考えられない。ただ、どう考えてもその2つが並存しているような気配しかしないのだ。
 まぁ考えているだけで解決するものでもない。とりあえずウーノは玄関を開いてみる。

 入ってすぐのリビングで、フォースが倒れていた。

 両手にしっかり拳銃を握ってるところを見ると、やはり誰かと戦闘していたらしい。意味もなく空砲を乱射したりもするから断言はできないが、さすがの暴れん坊でも一人で勝手にここまでの状態になるのはかなり難しいはず。頭部を初めとして数箇所に打撲を負っているので、十中八九「相手」がいたに違いない。
「おや? これは……ダイイングメッセージ?」
 ちなみに書いた本人は全くもってご存命、目を回して気絶してるだけである。だがニュアンスとしては当たらずとも遠からず。フォースは食卓に乗っていたケチャップを使って床にメッセージを残していた。事の真相でも書き残そうとしたのかもしれないが、ケチャップはちょっと洒落にならない。目が覚めたら責任をとってしっかり後始末してもらおう。
 さて、何と書いてあるのかと見てみると。

『カ ニ パ  ン  ↑』

 確か日本の駄菓子の一種だ。仲間が里帰りのおみやげに買ってきた際に、みんなで結構いけると楽しんで食べた記憶がある。しかし何故カニパン。食中毒だろうか。
 添えられた矢印は、廊下の方へ向けられている。一番奥は裏庭につながる勝手口。とりあえず状況を確認するためには行ってみるしかないだろう。ウーノはメモ帳とペンを懐から取り出すと、何やら書き記してフォースの手に握らせた。

『きちんと掃除してください。罰として夕飯はパセリライス』

 リビングと廊下は「ノレン」とかいう布切れで一応仕切られているが、実質は繋がっている。廊下にあたる部分に足を踏み入れた瞬間、と表現すれば良いのだろう、何かが爪先に触れた。何か固いような柔らかい——
 惨状がウーノの目に映りこむ。同時に、鼻をつく強烈な匂い、廊下の大部分を満たすのはどす黒い液体、そして転がる複数の物体。

 ちょっと奥にツーストが倒れている。ただし、首から下だけ。頭部はちょうどウーノの足元に、そう、いま爪先に触れたのが。

「また派手にやられてますねぇ……
 目を回して完全に気を失っているツースト(頭)を見下ろしながら、ウーノは憂鬱そうに溜息を吐く。メカニカルなアラビアンの首など電気屋で部品を買ってくればすぐにくっつくから良いが、機械油はケチャップなんか目じゃないぐらい洒落にならない。おまけに本人には責任がなさそうだから、罰を与えるわけにも行かない。
「いや、それなりに戦えるんだからせめて掃除の楽なやられ方をしてもらわないと。」
 そうだそうだ、そういうことにしておこう。いくら家事全般を引き受けてるとは言え、これは専門外だ。ウーノは再びメモ帳とペンを取り出し、伝言を書き記してツースト(頭)に貼り付けた。シール式はこういう時に便利である。

『床板ごと始末して修繕してください。罰として3日間ハイオク差し押さえ。』

 しかし驚きである。本気を出したツーストは、平時のウーノを上回る戦闘能力を持つというのに。
「ツーストをこうも簡単に……気楽にはいかなそうですねぇ。」
 ただ、残る一人に関しては心配していない。互いに本気でぶつかれば、ウーノと互角の力を持つ強者だ。案の定、裏庭から爆発音が聞こえてきた。え、爆発音?

 オイルに浸された廊下を一足飛びに越えて、ウーノは裏庭の扉を半ば強引に蹴り開ける。そこには中世日本の衣服に身をつつんだ幼い少年と——
……悪魔……いや……
 真っ黒なマントに燕尾服、まるで洋画に登場する吸血鬼のような出で立ちだが、頭部を奇妙な覆面で覆っている。その形状は一言で形容しにくいのだが、しかし、とあるものを知っているとどうしても浮かんできてしまう言葉がある。
……カニパン……?」
 フォースの遺言(しつこいようだが実際にはご存命)にあった通りだった。日本の駄菓子によく似た形状のものがあるのだ。ただ、どこから見ても異次元からやってきたとしか思えない悪魔風の彼が、カニパンを知っているはずもないだろう。
「あ、リーダー。ちょうど良かった、このカニパン追っ払うの手伝ってよぉ。」
 和風少年の若さんが、侵入者から視線をほとんど逸らさずに告げてきた。目を離したら危険、ということか。
「一体何があったんですか、若さん。」
「こいつがウチの前にね、いつからいたか知らないけど、郵便受け見に行ったらいたの。」
「ふむ。それで?」
「カニパンみたいで面白いから生け捕りにしようとしたら暴れだした。」
「当たり前です。」
 若さんは子供のくせに戦闘能力がアホみたいに高いので、たまにこういうことを言い出す困ったちゃんである。本気の若さんを確実に倒せる者は、恐らく世界中を探しても2人だけ。古代の呪歌を意のままに操る世界的指揮者の鳥人と、銀幕に舞う死者の女王——まぁ余談でしかないが。現在問題になっているのは、このカニパン魔人(いま命名)である。
「とりあえず若さん。」
「なぁに?」
「謝りなさい。」
「やだ。」
 ここまでは予想通りである。このわがまま坊やがこの程度で謝るはずもない。
「やれやれ……仕方ありませんね。ならせめて、手を出すのを止めてもらえますか。」
 いくらこのカニパンさんが強大な力を持っているからと言っても、先にこっちがちょっかいを出したのが問題だったのだ。非礼を詫びればおとなしくなってくれるかもしれない。
「トマト祭りのお土産で日本製のトマトプリッツを大量にいただいてきました。」
「あー、それでリーダーそんなにトマトまみれなんだ。」
「食卓においてきてあるから、おやつにでもしててください。」
「うん、おやつなら僕はずらかるよ。」
 ひらりと宙返りをしてこちらに飛び退いてきた若さんは、ご機嫌に横笛を吹きながら家の中へ消えていった。散々状況を引っ掻き回しておいて呑気なものだが、まぁ子供のやることなので目くじらを立てても仕方ない。今の問題はそちらではなくて——
「さて……ウチの子たちがいろいろと失礼をいたしました。」
 いちおう警戒だけは解かないでおく。いくらこちらが悪いとは言え、問答無用で暴力に訴えてきた相手だ。もっとも若さんと互角にやりあってた相手だから、返り討ちにされる可能性も低くはないのだが。
……お前は……
 ぼそりとした口調だが、とりあえず何を言っているかは理解できた。意志の疎通はできると見て良いらしい。
……不思議な思考パターンをしている……
 開口一番、不思議人間との評価である。何か変なことでも言っただろうか。
……通常、不確定な危険因子を認識した場合、排除を第一要件として行動するもの……
 彼の「通常」では「よくわからない怖い相手に出会ったら、やられる前にやれ」となるようだ。なかなか物騒な思考だが、フォースとツーストが叩きのめされた理由はよくわかった。カニパン呼ばわりして生け捕りにしようとしてくる相手など、第一要件どころか排除以外に選択肢がない。命があっただけ有難いと思わなければならないだろう。(もっともツーストは生身だったら大変なことになってたわけだが。)
「私は臆病な上に日和見でしてね……暴力沙汰はなるべく御免被りたいんです。」
 肩をすくめて見せるが、相手は相変わらず何を考えているのかもわからず、不可思議な力でふわふわと浮いている。せめて仮面を外してくれれば表情も読めるのだが。
……………………。」
 当の相手は、ウーノの言葉に何かを考え込んでいたようだった。
……なるほど、この世界は……
 そしておもむろに仮面を外す。赤紫色の長めの髪に、燃えるような紅の瞳。
……平和、なのだな……
 目を細めて空を見上げたその表情は、いったい何を物語っているのか。口元には笑みを浮かべているが、どこか自嘲的で。まるで何か大切なものを失ったかのような、いや——

——たいせつなものを、その手で

「よろしければ……
 馬鹿な話だと思った。勝手な想像で相手に何を投影しているのか。でも開いてしまった口は、出してしまった言葉は打ち消すことはできない。
……お茶でもいかがですか、先ほどの仲間の無礼のお詫びに。」
 引き込まれそうになったのだろう。彼の内に感じる「闇」に。

 口直しが必要だ。自分にも、彼にも。

……何故そこまでしたがる……?」
「何となくね、帰したくないんですよ。ちょっと世間話でもしたいもので。」
……本当に、変わった奴だな。」
 非難するような言葉を言いながらも、特に異論はないと言った風だった。玄関に向かうウーノの後ろを黙ってついてくる。
「リーダー! お茶入れてよ、お茶~!!」
 窓越しに若さんの声が聞こえてきた。タイミングとしてはかなり良好だろう。そろそろノビてた二人も目を覚ますはず。(もっともツーストは部品がないから応急処置になるだろうが。)

「さぁどうぞお入りください。散らかってますけれど。」

 異世界からの珍客を迎えてのティータイム。難しいことは考えなくていい。それでいいのだ。

 彼に、しばしのやすらぎを。