『PSI Twins & a DoLL』(ポップンミュージックSS)

2012年1月3日
拙作(ポップンミュージック)

毎度土下座で説得力ありませんが、今回のキャラ壊し被害者は3名です orz
硝子、2P硝子、そしてシャルロット(実は2P)が織り成す、
壮絶なオタトーク&バトル。(←ひでぇ)


ポップンミュージックSS
PSI Twins & a DoLL

『まきますか    まきませんか』

 それが、その小包に同封されていた手紙に書かれている内容だった。ただそれだけ。どうもどちらかに○を付けてほしいようだが……
…………
 硝子(しょうこ)は何も言わずしばらく考え込む。どちらに○を付けるか、そんなことはどうでも良い。何かインスピレーションが降りてこようとしている。

 そうだ、この文字配置。

 答えが出た。無表情は崩さぬまま、勢い良くペンを紙面に滑らせる。

『まきますかるーせるまきませんか』

 出来上がった人名を確認して、硝子は満足そうに頷く。無表情が崩れていないように見えるけれど、よく見ると頬の端が少しだけ緩んでいた。
………ふぅ。」
 ため息を一つ吐くと、すぐにその緩みもなくなって元の無表情に戻ってしまう。
……とりあえず一つ言いたいのだけど」
 後方へ振り向き、そこにある「もの」に語りかける。それは人ではないゆえ「者」とは言えないが——
「この紙って人形が来る前に届くものって設定よ、確か。」
——人に限りなく近いゆえに「物」と呼ぶのは憚られる。人の形、という字が表す通り、ぱっと見は人そのものだ。目をこらしてみれば、関節の継ぎ目がはっきりと分かれているのだが。
……あら、そうでしたかしら。」
 言葉を発したのは硝子に非ず。だがこの場に存在するもう一者である人形は人に非ず。しかし消去法で考えればその声の出所は一つしかない。
「ウロ覚えでネタを使うと、思わぬ恥をかくわよ。」
「なるほど、肝に銘じておきますわ。」
 いくら人にそっくりとは言え、人形がしゃべるというのは日常的ではない。もちろんプログラムに従って擬似的な会話を行う人形というのは無いわけでもないが、この人形は明らかに自分の意思で会話している。にも関わらず、硝子は平然と会話を続けていた。
「あなた、わたくしがおしゃべりしても驚かれませんのね?」
 人形の方もそれは疑問に思っていたのだろう。通常はしゃべれない身で勝手にしゃべっておいて、驚かないことを疑問視するのも図々しい話だが。
「そのぐらいではね……
 硝子はいま落書きを加えた紙に向かって右手を開いてかざす。まるで紙は意志を与えられたかのように何度も折れ曲がり、紙飛行機となって硝子の手の中に自ら飛び込んできた。
「こんなことができる日常だから。」
「なるほど……納得いたしましたわ。」
 生まれつき強い超能力を持っているゆえに、迫害されるかと思いきや意外とそうでもなかったここまでの人生。まぁそれなりの青春を送ってきてるような気がする。いや実際のところはかなりオタ路線ですごめんなさい。でも楽しいので良しとする。
「それで、あなたが私のところへ来た理由は?」
 偶然でないことは容易に想像がついた。ある程度の目星をつけて、どんな人物がいるかおぼろげにだが把握した上で、彼女はここへ来たのだろう。
「逃げてきましたの、端的に言いますと。」
「逃げて……?」
 宅配便の荷物になって逃げてきたというのもなかなかシュールな話だが、ではいったいどこからなのか。しかし、この住所を知っている人間などそうそういないはず。
「あなたのご実家からですわ。」
……ああ。」
 それで納得した。あの家には魔物が住んでいる。少なくとも、この子のような美しいお人形にとっては魔物以外の何者でもない存在が。
「壁に大きくここの住所が貼られていましたのでこっそりと伝票を書かせてもらいましたの。最後のテープ留めは奇術師もびっくり、金田一耕介でも迷宮入り間違いなしな華麗なトリックを使いましたのよ?」
 そのトリックには興味があったが、ちょっと時間が押しているので残念だけど黙殺。
「でも残念ね……逃げるつもりならここに来たのは失敗よきっと。」
「あら、どうしてですの?」
「簡単な話だわ……。」
 そう言うや否や、硝子は窓の方に手をかざす。サッシ窓がひとりでに、正確には硝子の念力によって、力強く開け放たれた。
「遊びに来るときはドアから入ってっていつも言ってるでしょう?」
 その向こう側、すなわち窓の外の中空に浮遊していたのは——
「さすがね……気づかれてたとは思わなかったわ。」
 それは硝子と瓜二つの少女だった。ただし、髪の色は燃えるような赤。その好戦的で勝気な笑顔は、どこか気だるい感じを持っている硝子と対照的である。
……ここだと面白くないことになるわね。行きましょう。」
 硝子はそう言うと、有無を言わせず人形の少女を小脇に抱えてドアから外に飛び出す。赤い髪のあの子が何を考えているのかは手に取るようにわかる。多少のリーディングもできるが、そんな必要もない。決して短い付き合いではないのだから。
 相手があの子ではどこへ逃げても無駄。だったら広い場所の方が良い。一気に階段を駆け上がり、重い鉄製扉の施錠を破壊し、屋上へ飛び出す。ここなら誰も来ないから思う存分話せるし動ける。
「こら逃げるな、あたしのシャルロットを返しなさい!!」
 中空に浮いているだけの人は楽で羨ましい。少し高度を上げれば追いつけるのだから。
「久しぶりだっていうのに穏やかじゃないわね……ショコ。」
「穏やかじゃない事情があるからわざわざ遠出してきたの! 何でよりにもよってお姉ちゃんのとこなのよ!!」
 双子が感覚を共有しているというのは、あまり信用おけない話だと今実感した。全く主張が噛み合わないではないか。
「だいたいあなた、いつの間に守備範囲が広がったの?」
 もちろん、広がってないのはわかっているけれど。何となく言ってみたかった。
「その子自身の存在に興味はないわよ。でもその子のカタチが重要なの!」
 やはりそういうことか。
「カタチだけ重要とか失礼なお人ですわね、ほんとに。」
 自分が狙われているというわりには、意外とお人形——シャルロットは冷静だった。まるでここにいれば安全だと確信しているかのように。
「その形状は理想的なのよ……
 なんかうっとりしている。シャルロットを見てるがシャルロット自体を見ていない目だ。彼女の視界では壮絶な早回しが展開されているに違いない。
「あなたから原型を取れば、きっと理想的な等身大薔薇乙女が出来る!!」
 ここまで予想通りだと、呆れるのを通り越して拍手すらしたい気分になってきた。どうやら彼女は硝子が上京してくる前と全然変わってないらしい。地元の高校に通うのを選んだ理由だって、都会の狭い家では塗装用のアトリエも完成品を置く展示スペースも確保できないからという理由だった。まったく、何のために二人用の部屋を借りたと思っているのか。何かと言えば造形造形、少しはこっちの気持ちも——
……ちょっと、聞いてるのお姉ちゃん?」
「聞いてなかったわ。」
「相変わらずね……
 当たり前である。そう簡単に人間変われたら苦労はしない。
「かいつまんで言うと、シャルロットを返してと。」
 言われて硝子はシャルロットの方へ顔を向ける。
「あなたはどうしたいの?」
「わたくしは嫌ですわ。」
 即答を受けて再びショコの方へ向き直る。
「らしいので却下。」
「えーーーーーーーーー!!」
 そんなに驚くような流れではなかったはずだ。相変わらず自分の望みは叶って当然と思っているらしい。昔のままなのはお互い様のようである。
「そんな嫌がるほどのことじゃないじゃない。ちょっと複製のために型取るだけよ?」
「なんでドールのわたくしがそんな石膏像みたいな真似をさせられなければなりませんの!?」
 どこか飄々と対応してきたシャルロットも、こればかりは断固拒否らしい。
「あんたを直接原型にするって言ってるわけじゃないのよっ!?」
「そんなの言語道断ですわっっ!!」
 でも気が変わったらやりかねない。ショコはそういう子である。しかしパテとかベタベタ貼られる感覚を思い浮かべると、さすがに背筋が寒くなる。あ、削られることもあったかも。
「頑固なお人形ね……翠様と銀ちゃんには特に向いてそうなのに……
 確かに向いてそう。
「硝子、いま何か不吉なことをお考えになってませんでしたこと?」
「いえ別に。」
 お人形のくせに勘がいい。まぁリーディングされてるわけでもないから、とりあえずしらばっくれておく。
「それでショコ、あなたこのまま帰るのよね?」
 帰るわけないけど。
「帰るわけないでしょっ!!」
 予想ぴったりの返答をありがとう。
「こうなったら力ずくでも連れて帰るわ!!」
 ショコの周囲の「力」の流れが変わった。それは普通の人には見えない「力」。きっとシャルロットにも見えてないだろう。だが、硝子は「普通」ではない。
「邪魔するならお姉ちゃんでも……
 突き出された掌から「力」の奔流が放たれる。それは硝子とシャルロットのいる方向へ猛スピードで迫り、屋上の床に大きなヒビを発生させた。すなわち、当たったのは狙った相手の「後ろ」にあったものであり、それはつまり——

「私でも……どうするの?」

 ショコの背後から、一瞬前まで前方にいた人の声がした。シャルロットは屋上の隅っこに転がって呻いている。突き飛ばされた、ということか。つまり、お姉ちゃんは一瞬のうちにシャルロットを突き飛ばして、そして。
「小さい頃にもこんな風に大喧嘩したことあったわよね。」
 ショコの、攻撃してきた「敵」の、その背後に瞬間移動してきた、と。
「でも今度は、」
 頭を後ろから掴まれる感覚。これで視界は固定されてしまった。でも「力」の存在は第六感で感じ取れる。

それはとてつもなく大きな「力」。
何だって破壊できる、あまりに巨大で恐ろしい「力」。

「頭蓋にヒビが入る程度じゃ済まないから。」

最後に感じたのは、頭を内側から強く揺さぶられる感覚だった。お姉ちゃんの「力」は強い。すごく強い。でもお姉ちゃんの力で終わりなら、終わらせてもらえるなら、それでもいいか——

そこで、ショコの意識は闇に沈んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 肩に乗られるとそこそこの重量がある。でも素材が軽いのか、見た目から予測されるほどの重さはない。
「まったく、先ほどのあなたはちょっと怖かったですわよ。」
 手乗りならぬ肩乗りシャルロットは呆れたように言う。肩に1人乗っているだけならそんなに大変でもないのだが。
「いいのよ。あれぐらい怖がらせておかないと懲りないから。」
 抱きかかえている質量がちょっと大きいので、瞬間移動を繰り返すのも楽じゃない。
「一瞬、ホントに『やっちゃった』のかと思いましたわ。」
「まさか。ちょっと脳震盪を起こさせて気絶させただけよ。」
 本気を出せば脳だ頭蓋だとケチくさいことも言わずに、外身もろともレッツフィーバーだっただろうが、まさかそんなことはしない。
「可愛い妹を、手にかけたりはできないもの。」
 両腕の上でいまだに意識の戻らないショコは、何だか幸せそうな顔をして寝息を立てている。こうやっておとなしくしてると可愛いものなのだが。いや、暴れてたって可愛いのだけれど、今回は利害が一致しなかったのだから仕方ない。

「明日も平日だから、ウチまで運ばないと。」

 ショコをKOした硝子は、そう言って早速移動を始めたのだった。せっかくなので付き合うと言ったシャルロットを肩に乗せて。連続で瞬間移動を繰り返せば、ほんの30分ほどで実家まで戻れる。
「シャルロット——」
「シャルで構いませんことよ。」
 そんな長い名前でもないのだが、それで良いというならお言葉に甘えよう。
……シャル、あなたこれからどうするの?」
「わざわざ答えがおわかりの質問をなさるというのは、遠回しな拒絶なのかしら?」
 これで大人しく実家の蔵に戻ってくれるというわけでもなさそうだ。
「ウチのマンションはいろいろ出るわよ?」
 若年の世捨て人詩人とか背中に羽の生えた幼女とか何か暗殺経験のありそうなフランス人女子大生とか本当にいろいろ。
「あなたとわたくしも含まれるでしょうに?」
……確かに、それは言えてるわね。」
 またショコが押しかけてくるかもしれないことを考えると、自分たちも十分イロモノだ。そんなことを考えながら最後の瞬間移動を行う。空間が歪み、風景が一瞬で入れ替わる。目の前にあるのは懐かしの我が家。こう楽に帰ってこられるのでは、感慨も微妙に薄いのだが。
「ショコを置いてくるついでに母に顔見せてくるわ。ちょっと待ってて。」
 超能力少女を二人も生んだお母さんでも、しゃべる人形に衝撃を受けないとは限らない。硝子はそう考えたのかもしれないが、それは読み違いである。まぁ、そのことに関してはまたの機会でも良いだろう。

 街灯の明かりだけが頼りの薄暗い庭に一人取り残されたシャルロットは、心底愉快そうな笑みを浮かべながらぽつりと呟いた。
「久方ぶりのヒトの世界……どうなっているのか楽しみですわね……♪」

to be continued?