『かごめさんのインドア生活日記 バレンタイン編』(ポップンミュージック SS)

2013年2月15日
拙作(ポップンミュージック)

1月中に更新できなかったのは平常運転とは言え、
まさかバレンタインにすら間に合わなかったとは……! orz

そんなわけで今年一発目の拙作更新は久々のかごめさんです。
バレンタインネタを書こうと思い立った時に
何故かしゃしゃり出てきたダメ詩人。

久々の一人称形式に苦戦しているうちに
仕事が修羅場って進行が派手に遅れ、
あえなく1日遅れとなってしまいました……w

あ、内容はワンパ全開のいつも通りな感じです、はい。


ポップンミュージック SS
かごめさんのインドア生活日記 バレンタイン編

 ご無沙汰しております、毎度おなじみネガポジ継続系少女詩人でございます。いやホントご無沙汰ですね、いいかげん出番が欲しいところなんですが。いえいえまだイベントも始まってませんしね、まさかの登場なんてこともないとは言い切れませんよ。あらいやだ、自分でまさかとか言ってたら世話ありませんね。いいんです既に大人気ですから。拗ねてません。エモREMIXとかどうでしょうかとか思ってません。開幕からメタ発言はどうなのよって?こりゃまた失礼しました。

 例によって話が逸れまくりましたが少女詩人です。あ、そこはもう終わってました。相変わらず女子高生ライフをそれなりに満喫している私でございますが、バンドを組むわけでも文集の謎を解くわけでもなく、そろそろ1年近くが経過しようとしております。正確には10ヶ月。わりと大事なんですこのタイミング。わかりますか、4月から10ヶ月、簡単な足し算の問題です。頭の回転の早い方は引き算でも良いです。
 そう、2月です。2月といえば節分、豆まき、恵方巻き、ばらまきと来まして、ばらまくといえばスイーツ、焦げ茶色のお菓子をばらまいて三倍返しを狙うとかさすがにバブル気分も限界だと思うのですが、人は幻想から離れられない生き物なのでしょうか。
 はい、異次元に跳躍しかけた話題を無理矢理引き戻しましょう。2月にはバレンタインデーという催し物があります。製菓店が腕を競い合って金をふんだく……失礼、お客様の支持を求めるお祭りですね。言い繕っても毒が抜けきってませんが、完全に抜き尽くすのは無理があるってもんです。
 大人の皆様にとっては他者のため、或いは自分のために贅沢をする日となりつつありますが、青春まっただ中の我らティーンズにとっては、なかなかに重要な意味を持つ日とされています。いや、ティーンズであっても無為な人には全くもって無為なんですが。おや、天から水分が……雨漏りですかね。詩的な表現は敢えて避けておきましょう。
 手作りか購入かは人それぞれですし、渡す相手も篭める感情も様々でしょうが、これを良い機会と考えている人は少なくありません。この長い前フリからもお察しいただけると思いますが、私もまた例外ではなく——
……ごちそうさま。」
「はーい、おそまつさまでしたー。」
 お茶碗が空になったので考え事は終了です。ゆっくり食べないと健康に悪いので、食事時間は思案するには最適ですね。お行儀が悪いというお考えもあるでしょうが、効率重視ということでここは一つ。

 一日の中で間違いなく最も幸せな時間、それは言うまでもなくこの晩餐のひとときでしょう。何しろマイラブリーエンジェル(最近だいぶ大きくなってきたのでリトルは卒業しました)との甘い食卓です。いや、今日の晩御飯はスーパーで買ってきたタンドリーチキンだったので、どちらかというとピリ辛な食卓なんですが、とりあえず甘いことにしておいてください。詩人相手に比喩表現NGとか酷な話が過ぎます。
……ポエット、明日は教会のお手伝いよね……?」
 例によって陰気くさい声ですが、可愛い天使の名という美しい言葉が含まれているので大目に見てください。美声じゃなくても美声になりますね。美しい言葉を発する声、略して美声。ここテストに出ますよ。
「うん。帰りに何かおつかいしてくる?」
 この心遣い、さすがは私の天使。本音としましては「私だけの天使」と言いたいところですが、ポエットの慈愛はそんなに小規模ではないのです。もちろん、オンリーワンを巡って戦う必要が生じたならば、赤い宝石を手に取ることも辞さない覚悟ではあるのですが。ええ、ピスタチオみたいな名前のアレです。
……いいえ、大丈夫よ。帰りの時間を知りたかっただけ。」
 現実にはそんな激情を正直に吐露できるほどの熱血さはありません。頭の中はこんな惨状ですが、花も嫌々ながら恥じらって見せてくれる程度には乙女です。もっとも、ポエットの帰り時間が気になったのは事実なのですが。
「特に行事とかないから、そんなに遅くならないと思うよー。」
「じゃあ私の方が後ね。」
「うん。」
 そう、それを確認しておきたかったのです。朝、自分よりポエットの方が先に出発し、そして帰りのポエットの方が先という、その状況が成立することを。
……それじゃ、私は部屋に戻るわ。」
 お膳立ては整いました。あとは明日の立ち回りが全てです。ちなみに本日は2月13日。あとはわかりますね?

 何はともあれ、今は目の前のやるべきことを優先しなければ。日課の納品をしなければなりませんし、チャージも溜まってますし、オーブツアーも行きたいですし、ああ忙しい忙しい。
「あ、そうだ、かごめー。」
 ウキウキ気分で去ろうとする私を止めるラブリーキュートボイス。これで立ち止まらない奴は生命体失格です。振り向いた時にはマイスウィートエンジェルはかなりの接近を果たしており、なかなかにドキッとさせられそうに——
「夜ふかししちゃダメ、だからね?」
——なりましたが別の意味でドキドキものでした。それはこの世の笑顔という笑顔が全て過去になるほどの可愛い笑顔なんですが、惜しむらくは声がちっとも笑っていません。はい、昨日もネトゲで夜更かしして今朝こっぴどく怒られました。いや、だって、白猫が思った以上に美味しくて……ほらあれですよ、怒ってるポエットも可愛いからつい!!すいません反省します。
……はい。」
 これもマイラブリーエンジェルの思いやりなんです。オーブツアーはやめておきましょう。チャージもその分溜まりますし。え、懲りてない? いやそんなことは決して……

-・-

 あ、どうも、約18時間ぶりの少女詩人です。現在ですか? 放課後です。結局深夜までネトゲやっていたとか今朝は夜更かしを隠し通せたとか授業中は爆睡だとかそんなのはどうでも良いですからね。主に私が。そんなわけで放課後です。

 さすがに浮き足立つイベントの当日なだけあって、何やらクラスのみなさん忙しそうですが、私は逆に急ぐことは許されません。まかり間違ってポエットより先に帰ってしまうと計画が台無しになってしまうのですから。
……もらったわ。これで決まりね。」
 そこで時間潰しも兼ねて、同族であるクラスメイトの蒼井硝子を相手に、土地と魔力の取り合いに興じているわけですが——
……ちょ、ちょっとまって……
「待てと言われて待つ馬鹿はいないわ。」
 このガラス女、LV5ウィローロック完成直後にグレムリンとフュージョンを連続で引きますか普通!? あああ、私のとっておきの拠点が……おまけにいつの間に目標達成してるとか何の冗談ですか……いや諦めたらそこで試合終了です、まだイビブラは1枚残っています!!引けませんよねー。

\The true winner is determine!/

 奇跡の鬼引きで逆転負けとは、自分の不運を呪うよりも相手の強運を賞賛すべきでしょう……久々の再登場でノリにノッてやがりますね。やはり隠し解禁に期待ってその話はもう良いですか。思ったより激戦だったおかげで、だいぶ時間も潰れました。いいかげんポエットも家に戻っているはずでしょう。
……そろそろ行くわ。」
 ゲーム機を鞄にしまい、手早く荷物をまとめて席を去ろうとしたその矢先。
……かごめ。」
 ぼそりと名前を呼ばれたような気がして振り返ると、確かに硝子がこちらへ視線を向けていました。
……なに?」
「グッドラック。」
 あなたのような察しの良い女は嫌いですよ。まぁ今日という日を考慮すればバレバレですか。ていうか得意気に突き出した握り拳、その形はアウトでしょうどう考えても。サムズアップかと思ったらどこに親指挟んでんですか。いや、詳説は避けておきますが……

 さて、私には以前より何とか実現させたい遠大な計画がありました。それは平時では上手く進める算段が立ちにくい内容……そこで、このバレンタインというイベントを利用することにしたのです。あとは今朝方に展開しておいた「作戦」が功を奏してくれれば、お膳立ては整っているはず。

 などと逡巡しているうちにそろそろ5分ぐらい経つでしょうか。もしも目論見が外れていたらと思うと、なかなか家に踏み込む勇気が沸いてきません。しかし機会を逸してしまっては元も子も無いのもまた事実。意を決してドアを開くと、いつもは即時聞こえる元気で可愛い「おかえり」が聞こえてこない……これは好材料ですよ。
……ただいま……
 恐る恐る(のフリをしながら)居間に踏み込むと、そこにいるのは期待通りの状況のラブリーエンジェル。家に在庫の無いシガレットチョコはさすがにくわえてませんが、ソファーにふんぞり返って何やら不機嫌そうなご様子。私の姿を見るや否や、開口一番——
「かごめおそーい。」
 来ました!酔いどれポエット来ました!これでかつる!

 これこそが我が秘策、「ほろ酔いバレンタイン大作戦」。

 朝方に用意した仕掛けは2つありました。まずはバレンタインプレゼントのウィスキーボンボン(瓶詰め)。そしてもう1つは王道の置き手紙。文面は至ってシンプルです。

『味の感想が聞きたいから、私が帰る前にいくつかつまんでみてください。』

 その結果がこれです。ドゥーユーアンダスタン?

 ポエットはウィスキーボンボンを食べると、ごくごく微量に含まれるお酒のせいで酔っ払ってしまうのです。たったこれだけのことで、健康優良児の代表格であるいつものポエットからは想像も付かぬ、超絶おませな小悪魔天使(矛盾してるようですが黙殺します)に大変身。この状態であれば、普段ではありえないような展開もいろいろ起こり得る、否、起こせ得るじゃありませんか!

「かーごーめー。」
……は、はいっ……
 いけません、考え事などしていたら貴重な時間を浪費してしまいます。以前にポエットがこうなった時と同様なら、そう遠くないうちに酔いに負けて眠ってしまうはずです。目覚めた後はいつもの彼女に戻りますし、酔っていた間の記憶も残りません。いやまぁ残らないからこちらもいろいろと思い切れるわけですが。
「おやつ。」
……ええ、ポエットの好きないちごポッキー、買って来たわ。」
 素晴らしい、まさに目論見通りじゃございませんか。ウィスキーボンボンは子供の舌には癖が強いので、きっとおやつとしては納得できないと踏んでいたのです。通常のポエットであればこんなわがままは言いませんが、いまのポエットは言わば「女王様」、不満はぶつけるためにあるのです。ぶつける対象は言うまでもなくこの私。ああ、なんて素晴らしい現実なんでしょう。私、今日だけバッカス神の信者になります。
「はい……好きなだけ取って……
 心の中であてずっぽうの祈りのポーズを取りつつポエットの隣りに腰掛け、口を開けたポッキーの箱を差し出すと——
「やー、たべさせて。」

 うあああああ!もう幸せすぎます!何ですかこの状況!死んでもいいです!やっぱ良くないです!!こんな幸せ享受したばかりで死ねますかってんですよ!!

 などという心の昂ぶりは隠しつつ、おずおずとポッキーを1本手に取る少女詩人でありました。
……あーんして。」
「あーん」
 ポエットの嬉しそうに口を開く様がまたかわいらしいのです。いくらわがまま女王様になっていようと、好きなものは好きなわけで、先ほどまでの不機嫌が一変したようです。しかし何と可愛いのでしょう。太古の時代に定められたであろう、可愛いという言葉の根本定義を覆さなければならないレベルですよこれは。
 差し出したポッキーを食べ進めるポエットですが、さて、そろそろ手を離さないと私の手まで齧られてしまいそうです。ええ、本音を言うともちろん齧られたいです。しかし自ら負傷を求めるのはさすがに被虐嗜好が過ぎますね。いくら酔っ払っててもきっとドン引きです。とりあえずポッキーから手を離し、せっかくなので自分の分のポッキーを拝借。うん、ポエットじゃなくてもこの甘さはクセになります。

 このまま至福のおやつタイムを過ごしていても良いのですが、それでは計画は半分しか達成できずに終わってしまいます。メニューにポッキーを選んだのには理由があるのですから。そう、勘の良い方は既にお察しいただいてますね。

 ポッキーと言えば、ポッキーゲーム。

 ルールはまぁどうでも良いです。どうせローカルルールのお祭り状態ですから。とにかく状況を成立させれば良いのです。ポエットとポッキーゲーム、当然その結果は……うむ、心の鼻血が止まりませんね。
 とは言え、切り出し方もなかなか難しいものです。いかに下心が無いように振る舞うか、淑女然と純粋にゲームを楽しみたいように見せかけるか、心の準備も大切なわけです。

 おっと、ここでかごめさん痛恨のミス。考え事に集中するあまり、ポエットに2本目を食べさせてあげる前に自分のポッキーをくわえてしまいました。なんという失策でしょう、女王様への貢物を忘れて自分の軽食を優先させてしまうなど言語道断。

 とりあえず自分が食べかけでも良いので、ポエットに2本目を差し出そうとしたその矢先——

「こらー、かごめばっかりズルいぞー!!」

 え。
 えっ?
 ポエットさん、あなたいま何をしていますか?

 私がくわえてるポッキーの反対側を口に入れて
 ちょっとずつ逆行って

 いや、ちょ
 それって実質ポッキーゲー……
 まだ心の、心の準備がっ!?

 そんな私の心情など知る由もないポエットは、順調に慎重に逆行を進めてくるわけです。ポッキーをくわえてしまっている以上、こちらもちょっと待ってと声を発することも出来ず、状況を見守るだけしか出来ません。

 ポエットの顔が、唇が、どんどん迫ってきます。

 もう少し。
 あと少し。

 あとほんの少しで唇同士が——

……ごめん……っ」

 どうして謝罪の言葉を発したのか、自分でもわかりません。千載一遇の素敵なチャンスだったのに、どうして口を離してしまったのか、それもわかりません。
 ただ、陽気な私と陰気な私、両者よりも更に深層に存在を感じることがある、私の根本とも言える——言うなれば無意識なのでしょうか、それが告げたような気がしたのです。

 「本当にこんな形で良いの?」と。

 結果的に攻め手を回避された形になったポエットは、もちろんそんなことを意に介しているはずもなく、楽しそうにきゃらきゃらと笑っています。
「やだなぁかごめってば逃げないでよー、こわかった? たべられちゃうと思った?」
 黙って首を振っては見せましたが、怖かったというのはわりと的を射てるのかもしれません。本当にこれで良いのか、確かに疑問は残ります。そもそもに、今のポエットと何かあったところで、それが彼女の記憶には残らないのですから、結局は実体が残らない幻も同然。まさに夢幻の如くです。あら、私いま詩人みたいなこと言いましたね。詩人ですけど。
「まだまだだよー! もっとー! たーべさーせろー!」
 ポエットは好きなお菓子を前にしてテンションが上がっているのか、すっかり小悪魔っぽさが抜け落ちて、ただのわがままっ子状態になっています。わざわざ強調するほどのことでもありませんが、これはこれでまた別の魅力です。普段はわがままなど絶対言わないだけに。

 しかし、ちょっと顔が赤くなっているのが気になりますね。というか、赤みが徐々に強くなっている気もします。もしかするとウィスキーボンボンを食べ過ぎたのでしょうか?

 そう考えて、少しだけポエットから視線を外し、テーブルの上に置かれたウィスキーボンボンの瓶に目を移したわけですが。

「あれ?」

 陰気くさい声が珍しくはっきりと言葉を紡ぎました。そりゃそうです、目に入ってきた光景は衝撃以外の何物でもなかったのですから。普通の人だったら「あ、あ、あ、あるぇええぇぇぇぇっ!?」ぐらいの驚愕なんですよ。

 だって。

……開いて……ない……?」

 瓶には買った時の封がそのまま残っている、すなわち明らかに未開封の状態で、それっていうのはつまり——

 視線をポエットの方に戻すと、紅潮している顔がますます赤くなっていました。その表情はそれまでとは違って、そう、明らかにいつも通りのポエットがそこにいて、何か強張った笑顔を浮かべて、心なしか小刻みに震えているような、震えているというか、悶えているというか、いや、ていうかですね、私も状況を見失っているというか、認めると平静を保てないというかえーとつまり
……ポエット、まさか……
 しかし行動が早いのはポエットの方でした。こちらの言葉が終わる前に、勢い良く懐に飛び込んで胸に顔を埋めてきたわけですが、いや、ちょっと、この体勢はまずい、いろいろまずい。
……ポエットね、知ってたの。」
 顔を見せにくいのか、私の懐に体を預けて顔を上げぬまま、ぽつりぽつりとポエットが語った内容をまとめますと。

 あるときポエットは教会でウィスキーボンボンを口にし、神父さんやシスターたちの前で盛大に酔っ払ってしまったのだそうです。当然、普段のポエットからは考えられないような奇行が多かったようで、後日、シスターから助言をされたという話。わざわざポエットのはっちゃけっぷりを録画した映像を見せながら、「こんな風になってしまうから、大人になるまでそういうお菓子は食べない方が良い」と……
 その姿はきっとポエット自身にとって衝撃的だったはずです。しかしそれと同時に、羨望の対象ともなったのかもしれません。もちろんポエットが嫌々で良い子でいるとは思いませんが、平時と対照的な「わがままなポエット」は、いつもの彼女には絶対にありえない姿なのですから。

「わがまま……言ったっていいのよ?」
「ううん、そうじゃなくて、えっと……
 抑圧された不満、というほど大袈裟なものでもないのでしょう。ただ、ポエットには何か言いたいことが、主張したいことがきっとあるはず。それこそこんな彼女らしくもないお芝居をしてまで。
「あのね……
 意を決したように真っ赤な顔を上げたポエット。はにかんだような、ばつの悪そうな、今までに見たことの無い大人の表情で言ったのは——

「かごめに……あまえんぼしたいなって……

 その言葉は、心の中で何かが発火するような感覚をもたらしました。

 ほら、テレビなんかにマジシャン登場しますよね、あれが握った手を開くとボンッって火が上がるのあるじゃないですか、あと他に例えるなら料理の、フランベですっけ、ワインをナベに注いだらボワーッと火が上がるの。あんな感じです。もう詩人としては最低の陳腐な表現ですね、わかってます、でもそのぐらいしか頭が働かないんです現状。様々な感情と思考がないまぜになって、制御が効かなくなっています。

 ともあれ、迷いなく取った行動はもちろん一つ。

「わっ……
……ごめんね……
 抱きしめずにはいられませんでした。愛おしさが半分、謝罪の念が半分。先に口から出たのは後者でしたが。

 この子は幼いのに、私なんかよりよっぽどしっかりしていて、私のことを見守ってくれて、たまに叱ってくれて——気付けばポエットのことを、お母さんかお姉さん、そんな風に見ている自分がいた気がします。だけど、ポエットはまだまだ甘えたい盛りの幼い少女なのです。私はそれすらも忘れてしまっていた、いつの間にか彼女が甘えることを遠慮するような状況を作り出していた、そんなことにすら気付いていなかったなんて……
「かごめ……
 まるで私の心を見透かしたかのように、ポエットが心配そうに見上げてきます。いけない、また世話を焼かせてしまう、そんなことを思っていたら。
「だいじょうぶだよ。」
「え……?」
 酔っている時とは全く違う、だけど普段のポエットともまた違う、深い優しさをたたえた微笑。
「かごめのママにだって、おねえちゃんにだって、なってあげる。」
 本当に心の中を覗き見てるような言葉でした。言われた私が後から気付く自らの深層の感情、それは、家族を求める想い——ポエットはそれを見透かしていたのでしょうか。
「いいの……?」
 謝ったばかりなのに、反省したばかりなのに、またポエットの慈愛に縋ろうとしている、だけどそんな私を彼女は拒絶することもなく、黙って頷いて、受け入れてくれた。

 そう、そこにいるのは、何の誇張でも比喩表現でもなく、紛れも無い天使そのもの。

「だって、ポエットはね……

 覗きこむその顔が、瞳が、唇が近い——

「かごめが、大好きだから。」

 この情けない詩人が、ウィスキーボンボンとか、ポッキーとか、様々な策を弄しても叶えられなかった望みを。

 この小さな天使は、いとも簡単に叶えてしまいました。

-・-

 刹那と例えても過言ではない短い間のことだったものの、その温かく柔らかく瑞々しい感触は、この唇に鮮明に残っていました。既に2度ほど頬をつねっているのですが、つねったショックで唇の方の記憶が吹っ飛んだら最悪なので、夢なら夢で良いやと結論付けることにします。

 隣りには相変わらずポエットが座っていて、その柔らかい体を預けてきています。照れよりも嬉しさが勝っていると言わんばかりの、屈託の無い笑顔。
「えへへ……今日はあまえんぼさんでいいよね?」
「ええ。お願いだって何でも聞いてあげる。」
 この一件をきっかけにして、ポエットが私に甘えやすくなるのなら、回りくどい画策をしたのも無駄ではなかったかもしれません。ポエットが気にしないと言ってくれても、やはりたまにはお返し的なこともしたいですものね。
「なんでも?」
「そう、何でも。」
 実現不可能なことを言う子じゃないと信頼しているから、こう断言するのもまったく怖くありません。むしろこの子には、このぐらい言ってあげないときっと遠慮してしまいますから。
……えっとね……じゃあ……
 少しはにかみながらポエットが取り出したのは、すっかり忘れ去られていた、いちごポッキーの箱。あれ、私ちょっと迂闊なこと言っちゃいましたか。こういうのをナイスうっかりって言うんですっけ確か。

「さっきの、もういっかい……ね?」

 断る理由が無い以前に、断ることを許さない雰囲気……これはあの酔いどれ事件の時と同じ状態では。しかし相変わらずウィスキーボンボンは未開封なのに何故——そこで、自らが浮かべた仮説をふと思い出したのです。

——ポエットは酔っぱらった自分の姿に、ある種の羨望を抱いたかもしれない。

 ああ……そんなオチでしたか……

……ん。」
 とにもかくにも、為すがまま、です。差し出されたポッキーの一辺の先を口にくわえて、あとは天使様にお任せ。

 満面の笑顔で、さっきと同じようにポッキーを順調に逆行しているポエット。
 まさに幸福の時限爆弾ですよーとか浮かんできましたが、これじゃ詩人というよりグルメリポーターですか。

 正直なところですね、さっきから心拍数が大変なことになってまして。くだらないことを考えて気を逸らすのも限界のようです。
 すいませんが、今回はここで店じまいとします。

 この幸福感は、独り占めしたいので……

END